赤い町だ。
いや。
町というより街か。
茹だるような暑さとは言わない。地上にいるなまもの全般を焼き切るような暑さだった。
社会人とその妹の後ろにひっつきながら、新宿を目指し新大久保を歩いていて思った。
彼らには馴染みのある土地なのだろうが、神奈川県在住の僕にとってはまぁまぁの新境地である。
新宿から一駅しか離れていないというのに、土地の性格の違いがビジュアルでもサウンドでも顕著に伺える。
目線を少し上げて見やると、看板は赤、赤、たまに黄色。また赤。
そしてなぜか、筆書きのフォント。
新大久保南側は、チーズタッカルビの店が三件も四件も隣接している。
ある種がまとまっている土地をコロニーや繁殖地帯と言ったりするのだろうが、ここはどちらかというと激戦区。扮装地帯だ。共食いの危険性がある。チーズタッカルビでチーズタッカルビを嚥下するもうまさにチーズタッカルビである。
まぁ僕はチーズ好きだからありがたいが、金がないのが残念なのだ。
大繁殖。
天敵とされる生き物が乱獲などによる原因で減少→それまで天敵の餌となっていた下等生物が減りにくくなる→その地帯に下等生物がよりウヨウヨし出すことだ。たしか。
それに則って言えば流行りの廃れでチーズタッカルビの天敵がいなくなり、フードヒエラルキーの頂点がチーズタッカルビになってここまで繁殖したということだろう。
チーズタッカルビの天敵。
なんだろう。僕は金がないからそういった買えもしない贅沢な食物の情報を仕入れると胃がかわいそうになって目を背けていたけれど、強いて思いつく範囲ならふわっふわの氷にマンゴーをトッピングしたやつだ。
あれ、それは台湾だっけ?
なんだかいたたまれない。
行列ができているところは、チーズタッカルビを売っている店ではない。
街な部分もあるが、町の部分もある。街と町が隣接している。割と静かな神社と焼肉屋と民家がぎゅっと圧縮された路地を抜けて大通りに出ると、パチンコ屋のサウンドに頭を打たれる。そして耳に入るのは、韓国語っぽい響。ぽいというのも、僕はハングル語が全くわからないからだ。
新宿はここまで赤くない。もう少し青かったりする。…気がする。
あと新宿はもう少し、英語が多い。…気がする。
目の前を歩く赤メッシュが、新宿では何が食べたいか聞いてきた。今日はいつものスーツではなく、半袖ポロシャツに半ズボンという、普段に増してだらしない見た目をしていた。スーツ姿がだらしない二十五歳というのもなんだかかわいそうだが。
茹だるような暑さとは言わない。地上にいるなまもの全般を焼き切るような暑さだった。
金髪の履いてるいつも通りのスキニーパンツが暑そうで、僕は、ふわっふわの氷にマンゴーをトッピングしたやつなんてどうでしょう。などと言ってみたのだ。
2018/6/29 (友人)(15分)